古民家再生 “完成内覧会” |
以前、住宅の設計監理をさせていただいたお客様の紹介で、古材で住宅を建てたいというお客様にお会いしたのは昨年の夏ごろだったろうか。聞けば1年前に既に古民家を購入していて、それを移築再生させながら現代の住宅を増築し合体させたいという計画だった。古民家をその場でそのまま改装するのとは違って、移築再生ならば、基礎の構造や断熱や気密性・それにインターネットの配線など、将来も見越した住宅に作り変えることが可能だ。
何といっても、今では手に入れることすら難しい欅の構造美、それに、職人の巧みな技が光るこのような建具など、私はそれらを再び輝かせるために、早速その材料を見せていただくことから始め、喜んでその設計に取り組んできた。
そして、あれから8カ月、その住宅が見事に完成。生活が始まる前に、この手法の素晴らしさを一般の人にも観ていただこうと、昨日、その内覧会が行われた。前日の山形新聞に紹介されていたこともあり、朝から見学客は途切れることはなく、新建材の新築住宅に見慣れている人たちが、みな驚き感動していただいたようだ。
昨今のハウジングメーカーの住宅は、勿論全てとは言わないが、ほとんどが新建材によって出来ている。窓枠やフローリングや柱まで・・・一見“木”・・に見えるが、表面の木目は印刷された偽物。そして、その素材には一本の木ではなく、寄木細工のような集成材が使われることが多い。それは、乾燥によって、割れたり、よじれたりすることを恐れるからなのだ。つまり、その変形に対するお客様のクレーを恐れるがあまり、その素材のよさを置き去りにし、表面だけを装うようになったのだ。その結果、量産が可能となった利点はあるものの、質感のない無機質な素材に囲まれることになった。さらに壁は塗り壁に似せたビニールクロスで覆われ、それは、場合によってはタイルやレンガまで印刷されたビニールクロスが使われる。
惜しげもなく、贅沢なまでの材料を職人たちの匠な技の結集で創り上げた古民家は、現代のライフスタイルとのズレが生じ、壊され捨てられていった建物が多い。そんな貴重な古民家を現代の設備などと融合させ、もう一度豊かな空間を蘇らせるこの方法は、住宅を求める人たちの一つの選択肢となりえる。環境問題が深刻になりつつある昨今、資源の再利用といった視点からも見直されるべきかもしれない。
そんな「古民家再生」による住宅が完成し、昨日内覧会が行われたのだ。
その古民家住宅にちょっとだけ・・・・ご案内!
古民家の外壁には、外断熱が施され断熱サッシが取り付けられたりと、外観からはあえて古民家のイメージにこだわらない姿とした(左)。玄関の雨受けには古い石の“つくばい”が置かれている(中央)。そして、玄関の扉を開けると、正面に古民家の匠を感じさせる建具と共に、その上部に嵌め込まれた透明なガラスの奥に、欅による見事な構造美が垣間見える(右)。
その玄関のホールには、欄間に使われていた見事な格子の建具を、壁にあえて縦に嵌め込み、そのシースルーな窓からかすかに茶の間が見える(左)。内部には、古民家にあった大きな建具がそのまま引き戸として嵌め込んだ(中央)。システムキッチンが設置された厨房のカウンターには、欅の1枚板が使われ、その下の食器棚にも1枚板の建具を嵌め込んだ(右)。