防寒具に身を包み腰にはアイゼンを下げ、我がマンションのロビーから外に出て見れば、天気予報では全国的に晴れ間が広がる・・だったはずが、今日の午前は僅かだか雨がぱらついている。えっ!・・と、私はその場で暫したじろぎながら、まぁ~・・これくらいなら帽子があれば大丈夫だろう!と、私は、改めて帽子をしっかりと被りなおし、雨具を持たずに千歳山に向かって歩き出した。
(雪が融け、顔を出す岩肌は、まるで抽象画のように美しい色を放つ。)
何時ものように大きな鳥居のある登山口から入り、幾つもの赤い鳥居をくぐりぬけ、途中の稲荷神社で手袋を外し手を合わせた。さて、今日も千歳山の懐にもぐりこんでみるか!・・と、又手袋をはめなおし、トツトツ・・ピシァ・・トツ・・と、雪解け水ですっかりぬかるんだ登山道を、私は又何時ものように登り続けた。すると、ポツッ・・ボツッ・・ポツ・・と、今度は大粒の雨が落ちてきたか・・と思いきや、それは雨ではなく、林の木の枝に積もった雪が解けて、先日の雪粒ではなく、まるで大粒の雨のようにたえず落ち続けているのだ。雨具を持たなかった私だが、それは帽子に当たって跳ね返り、ジャンバーに当たっては水玉になってはじき返している。「これでは、雨空よりも雨っぽいなぁ~・・」と、独り言。そして、時々、私の頭上から、枝にしがみきれなくなった大きな雪の塊が、ドサッ・・と私の足元に落ちてきた(下)。「おぉ~・・・」と、私は思わず頭上を見上げた。今日は、たえず聞こえて来る、そんな、様々な雪解けの音を聞きながらの登山となった。
登山道を折り返し、時々そんな林を抜ければ、雪解けの音は消え、それに僅かな雨も上がったようで、まるで別世界のように静まり返える。・・・それにしても、今日はどうしたことだろうか、一人の登山客とも全く出会っていない。僅かな雨空に躊躇しているのだろうか・・などと思いながら、私は、山頂の展望台で、何時ものように息を整え、早速下山を始めた。相変わらず雪解けの音はするものの、今度は先ほどとは打って変わって、強い日差しが差し込んできた。「気持良いぃ~・・。」と、又独り言。暫くして、今度は、チッ・・チッ・・チッ・・と、小鳥の囀りも聞こえてくるではないか。・・あぁ~、春が近いのだろうと、私は、思わずこの千歳山の春の、眩しいほどの若い緑と、そしてあの“春の香り”を思い出していた。
稲荷神社近くの、緑もまぶしい竹林が、春の香りを思い出させる。