私の、自宅の玄関にある傘立ての中には、傘のほかに、冬の登山用のスキーストックと、二本の杖が入っている。
ほぼ三日に一度千歳山登山を始めてから早二年を超え、スニーカーは靴底に問題が発生し二足目、長靴も劣化のために二足目と、今年に入って何やら私の足元が新しくなった。それに加え、大井沢のマタギの友人が作ってくれた杖も二本目となった。
最初の杖は、石の階段やアスファルトを突くためか、先が割れ始めたために、私はその部分を鉄線でグルグル巻きにしていたのだが、磨耗のためにだんだんと短くなってきて、最近になってそのハリガネも切れてしまった。驚きなのは、その磨耗のために約二年間で、私の杖は三センチほど短くなっているのだ。先日の大井沢登山で、そんな杖の状況を知った大井沢の友人が、「二本目の杖がいるべ・・」と、山菜を背中に背負い下山する途中、杖になる木(ほうの木)を切ってくれたので、又、それが私の二本目の杖となったのである。
今日は、日差しが強くて気温が高く、おまけに風がない。それに昼からとあってか、まるで真夏のような暑さを感じ、登山を続ける私の体は、直ぐに汗ばんでしまった。そして、私はおもむろに半そでシャツのボタンを全部外した。それでも時々日陰を通りかかり、そして僅かな風を感じたときは、「あぁ~・・気持いい・・!」と、思わず独り言。そして、足元の登山道には、目を細めたくなるほどの鮮やかな緑が美しく、つい立ち止まってしまう。(上)
むっとする暑さの中でも、時々そんな緑のトンネルを潜り、僅かに感じる新鮮な風を思いっきり体に吸い込みながら、私は、また何時ものリズムで登り続けた。山頂に近づくにつれ、春先はだんだんと展望台の姿がくっきりと現れてきたのだが、いつの間にか、枝に咲くたくさんの緑の葉が被いつくし、展望台の姿をだんだんと隠してしまったようだ。
そんな真夏のような陽気の今日、私は、二本目の杖を持って又千歳山の山頂に立った。