えっ・・!、藁縄で? |
大鳥居のある登山口から稲荷神社へ続く参道の足元の雪は、以前から滑り止めのために人の手が加わり、私はその様子をまるで回遊式庭園の飛び石に例えてみたのだった。
先日、又少し融けだしたその足元の雪は、登山客の足でほど良く土色が付き、そして、登山道にめり込んだように見えるその光景は、サイズといい質感と言いい、まさに飛び石そのもので(左)、私は思わず顔がほころんだ。そして、先日まで霜柱がキラキラ輝いていたと思えば、融けた雪が登山道を湿らせ、ピチャピチャと音を立てる。でも、山頂付近ではアイゼンが必用なほどに融け始めた足元の雪は、又凍てついていたりと・・、春を前に、千歳山も冬を惜しむかのようだ。
思えば、登山帽に登山用ステッキ、それにニッカポッカや登山靴など、一時間ほどのハイキングのような優しい山には必ずしも必用ないが、私は、このアイゼンだけは必用に迫られて購入したのだった。
・・・でも、先日、こんな登山客と出会った。
私は、何時もの出で立ちと何時ものペースで、トツトツ・トツトツと五合目あたりを登り続けていると、いつの間にか一人の中年男性が後ろから近づき、「こんにちは!・・」と挨拶を交わし、あっという間に追い越して行った。その出で立ちは、ネクタイこそ見えないが、スーツに薄手のジャンパーをはおり、足には深長靴・・ではなく、普通の長靴を履いている。どう見ても、登山とはほど遠い出で立ちである。ところが、融け残った足元の雪が凍てつき始めた七合目あたりで、立ち止まっている彼に追いついた。彼は、何やらジャンパーのポケットから縄のようなものを取り出しゴソゴソしている。その脇を通り過ぎた私を、間もなくあの男性が又追い越すのだが、よく見れば、何やら長靴の土踏まず附近に藁縄が巻き付けてある。・・なんと彼は、長靴にアイゼン代わりに縄を巻いていたのである。・・そんな方法もあったのか・・と、私は、暫く目の前を登り続ける彼のその足元を眺めていた。考えてみれば、歯の付いたアイゼンでは、雪の上は良いが土や岩の上はガリガリとして都合が悪い。縄ならば、凍てつく雪や土や岩でも平気だし、足に伝わる感触もソフトなはずである。ただ、直ぐに切れてしまわないかと思うのだが、・・・そしたら又巻けばよい。
昨今、千歳山の登山客も様々で、登山帽にニッカポッカ、登山用ステッキに登山靴と、本格的な登山の練習なのだろう背中に大きなリュックを背負った人など、それに、冬は流石に見かけないが、そんな“登山用品”で身を固めた“山ガール”なる姿も現れるようになった。でも、彼のように、登りたい・・という思いの他は、“カタチ”というものに全く気にも止めないその柔軟さと逞しさが、私は、逆にとても素敵だと思った。
さてさて、又今年一年、この千歳山でどんな人たちと出会うのだろうか?、四季織り成す美しさへの期待に、そんな楽しみが加わった。