故:「高木 仁三郎」氏の・・“警告” |
先日、脱原子力運動の中心人物であった科学者である故:「高木仁三郎」:著『プルトニュームの恐怖』という本を読んだ(左)。2000年に62歳の若さで他界した彼は、理学博士(東京大学)であり、日本の物理学者でもある。彼の本に寄れば、プルトニウムは人類が初めて作り出した放射性核種であり、「かつて人類が遭遇した物質のうちで“最も毒性の強い物質”」なのだという。そのプルトニウムは、核兵器の原料や「プルサーマル発電」におけるMOX燃料として主に使用されるが、「原発」の中でもとりわけ危険が大きいのだという。この度の「福島第一原発」の「1号機」に続き、「3号機」までもが水蒸気爆発を起こしたのだが、この「3号機」が、まさに危険が大きいこの「プルサーマル」なのである。
それに、この水蒸気爆発により、「プルトニウム」が漏れ飛散したことはほぼ間違いの無い事実のようだ。その「プルトニウム」の痕跡が、超新星爆発から太陽系の誕生以来残っていて、つまり、この核種の半減期が何と・・約2万4000年と、ほぼ全く消滅することのない物質なのである。長崎に落とされた原爆が、爆発したあとに降って来たあの「死の灰」には、大量のこのプルトニウムが混じっていて、爆発の被害を逃れた多くの人たちも、その「死の灰」を吸い込んだことによって内部被曝の犠牲になったのだった。
その一つには、原発は「トイレなきマンション」・・といわれるがごとく、解決しない“原発ゴミ”の処分問題の存在である。各地の原発から出される放射性廃棄物のうち、「低レべル放射性廃棄物」は、切断・圧縮・溶融などを経て、セメントやモルタルを使って“黄色いドラム缶”に固形化されるという。その後、青森県は六カ所村にある埋設センターに搬送されて、計画的に地中に埋められる。これは、1992年以来ずっと埋設が続けられているといい、これからも延々と続くのである。想定内で作られたその埋設の方法も、果たして安全なのであろうか?。
一方で、「高レベル放射性廃棄物」の問題がある。それは、国策の「核燃料サイクル」(原子燃料の循環計画)にのっとり、「使用済み燃料」を再処理してプルトニウムを取り出したあとに残る“究極の厄介者”の存在である。何世代にもわたって地球上の生命と環境の破壊をもたらしかねないこの危険物。その最終処分場の候補地が、何と、今もって見つかっていないのである。
つまり、そういった負の部分が、解決していないままに見切り発車してしまったのが「原発」だったのである。「原発ゴミ問題」は、子供たちのその又子供たち・・といった目の前の距離感ではなく、何万年・・といったレベルの話なのである。“原発ゴミ”は、その処理する方法が見つからなければ、この地球上に永遠と増え続け、そして放射線を放ち続ける。
もう一つは、“想定”の問題である。この度の大津波は想定外・・というが、では、戦争やテロによって核施設が空爆される恐れはないのか?、・・さもなくば誤爆や墜落事故もありうるのではないか?・・・あの逆噴射飛行機事故のように、人間が操作をあえて誤ることは無いのか?、・・・核が盗まれる危険性は無いのか?・・・などなど、これらは、いったい“想定内”なのであろうか?。「核不拡散条約」とは別に、世界の各兵器庫には今、人類を何回でも繰り返し殺せるだけの核兵器が蓄えられているという。そんな「核兵器」はともかくとしても、遠い?・・将来、この「原発」までもが人類が破滅(自滅)する要因であってはならない・・とは、言いすぎだろうか?。
故:「高木仁三郎」氏が懸念していた通りに、いろいろなところで彼の“警告”どおりに事故が起き、「スリーマイル」・「チェルノブイリ」・そして「フクシマ」と、原発は定期的に大惨事を起こしている。
彼は、スエーデンの物理学者「H・アルフヴェン」の次の言葉を引用し更に“警告”する。
「核エネルギーは、一連の決め手の装置がうまく動作し、かなめの位置にいる人々が完全に指示を守り、サボタージュもなく、輸送中のハイジャックもなく・・・・・・、革命も戦争もない場合に限って安全といえるのだ。
更に、
「たとえ、今夜がこの世の最後であっても、われわれの決断は将来の世代の“のろい”の種となるようなものであってはならない。」・「・・・すなわち、われわれは、まさに人類の未来そのものについて論じる必要があるのだ。」
これは、『プルトニュームの恐怖』という本の中の、印象的な言葉である。
風車を巨人だと思いこみ、突進する有名なシーンは、スペインを象徴する騎士姿の「ドン・キホーテ」だった。そのスペインでは、風力や太陽熱といった、100%原発に頼らない発電に成功しているという。
自然エネルギーは自然まかせなため不安定で、コスト面においても火力や水力など既存の電源にも劣るという。勿論、今すぐ原発に取って代わることは難しいことなのだろう。でも、「神学的」・「経済学的」・「社会政治学的」・「エネルギー学的」・・といった、様々な方面から広く大衆的に議論を重ね、少なくとも20年・・30年といったスパンで、あのスペインのように徐々に「風力」・「太陽熱」・「地熱」・「バイオ熱」・「潮力」・・・といったCO2を出さない自然エネルギーに置き換えていくことは可能なのではないだろうか。もし人類が、文明に対する明らかなビジョンを持ち、そういった「脱原発」の方向に進むならば、私たちの“くらし”をもう一度見つめなおし、「社会観」を変える必要もあるのかも知れない。
今この日本には、総電力の約三割を受け持つ、合計54基の原発があり、そのうち22基が稼働しているという。さて、「高木 仁三郎」氏が今ご健在なら、「福島第一原発」のこの状況を眺め、何を語っただろうか?・・と。