“山ゆり” “あじさい” “さくらんぼ” |
トツトツ・・・ジャリ・・・トツトツトツ・・トン・・トツトツ・・と、後ろを振り返ることもなく・・又トツトツと
ひたすら自分の足元だけを見つめながら、ゆっくりと山頂を目指し・・・トツトツトツ。
時々私の体を爽やかにすり抜ける・・・サラサラサラと枝の葉がぶつかり合うほどの強い風も、
午前中に降り続いた雨のお陰か、ひやっとするほどに何とも気持ちが良い。
一瞬、足元から空に目を移せば、思ったよりも木の枝が大きく揺れていた。
「こんにちは・・!いつも速いですねぇ~・・。」と声を掛けたら、「こんにちは・・!」といって、登るのも降りるのも青年のように速いあの何時ものおじさんが笑顔ですれ違った。
名前も知らない人だけど、ほぼ4日に一度登る私といつも出会うのだから、きっと毎日登っているに違いないだろうそんな彼が、最近どこか友達のように親しみが沸いてきた。
何時からだろう、そんな登山道のほんの片隅に、風で揺れながら美しく咲くこんな“山ゆり”に、何故だか、今日初めて気が付いた。途中絶対に休まない・・!と決めている私だが、この“山ゆり”の前に思わず足を止めデジカメを構えた。
そしてその後も、私は息を切らすこともなく、坦々と山頂に上り詰め、たった一人の展望台で、今日の絶景を暫し眺めた。いつもなら見える遠くの川や山も、生い茂る木の陰になって見えないところがあった。ところどころに赤く染まり出した木の葉も美しく、刻々と変わり行く大自然を前にし・・・私はこの健康に感謝した。
下山をはじめて直ぐに、リュックを背負った若い女性二人と挨拶を交わしすれ違った。こんなゴツゴツした、岩だらけの山道でも、この二人を包み込む風景は決して不釣合いではない。
暫く誰とも出会わずひたすら下山を続け、ようやく稲荷神社の階段を下りていたら、今度は緑の中に青く染まる一輪の“あじさい”が美しく見えた。
私は、登ることに専念しつつ、いつも周りのこんなにも美しい光景に目が止まらなかったのだろうか。
今日は何時もよりも“ゆとり”なのだろうか、千歳山の魅力が増した感じがした。下山寸前に、鳥居の階段でひたすら昇り降りを繰返す青年たちと出会った。迸るようなエネルギーと、大きな声で「こんにちは!」と、きりっと正面を見据えた爽やかなその表情、そしてその声もトーンが高く、なぜか久しぶりに“こころが澄み渡るような気持ちになった。
下山した瞬間、先ほどまでの山の気候とは一転して、アスファルトの車道は風もなく、午前中に降り続いた雨が熱気とともに蒸し暑さとなって、ようやく乾いた私の体からもう一度汗が噴き出した。
そんな道端に、・・自分の目を疑るほどに驚く光景に出会った。なんと、可愛くもうす赤く染まった季節外れの“サクランボ”の実が、小さな枝にしがみ付くように、あちらこちらに見えるではないか!。
なぜ・・・ここに・・さくらんぼ・・が?・・と、どれだけの偶然が重なったのだろうか、まるで野に咲く花のようだ。
私はデジカメを構え、いつも誰に見られることも食べられることもなかったのだろうこのサクランボを、いろいろな角度で記憶に収めた。
今日、いろいろと道草を食ってしまった私は、いつも5分と違わない千歳山山頂までの往復の時間が狂ってしまい、私の事務所でのある業者との約束の時間が近づき、いつものんびりと向かう帰りの道だか、今日は少々急がなければならなくなった。