会津の版画家 「斉藤清」 |
彼が版画家になる前の、初期の油彩にはすでに個性的な色使いや、大胆で大らかな構図がうかがえ、その後、彼独特の手法を獲得し、生涯一貫して「会津の冬シリーズ」が続く。それとは別に、抽象的な人物画や、色も鮮やかなさりげない植物の版画など、そんな様々な被写体を描いたがたくさんの魅力的な版画があったことを目の当たりにした。そんな中で、私が特に目を奪われたのは、彼が68歳の時に制作したという冒頭の「慈愛」という版画だ。
平面的ではあるが、余計な“カタチ”を限りなくそぎ落とし、彼の表現にとって最も重要な“カタチ”だけを単純化し、・・・そしてくっきりと浮かび上がらせ、そこに何処までも深い奥行きをも表現した。この何という静かさ!、何と言う構図!、そして何と言う優しさだろうか。彼自ら、「自分の絵が平面的になっていったのは、ゴーギャンの影響なのだ。」と語っているように、浮世絵版画に影響されたばかりではなく、西欧近代画家「ゴーギャン」・「ムンク」・「ルドン」などににも大きく影響されたということが、この「慈愛」という一枚の版画から充分にうかがえるような気がする。
(左:ヌード「G」、1966)
20数年前、彼の「会津の冬シリーズ」と出会い、東北の雪国に育った私が、一種の“懐かしさ”や“郷愁”を感じるのは当然のことだったのだろう。
でも、この「慈愛」など、今回の旅で彼の沢山の作品を目の当たりにして、そればかりではない、人間「斉藤清」の人生の中で培われた人間的な感情・・・つまり、彼の“こころ”の奥から聞こえてくる鋭く強い“何か”・・・が、見る者にパワーをもって伝わってきた。(下:競艶、1973)
私はこの旅で、彼が描こうとした絵の本質に少しだけ近づけた気がした。