“蔵王で転落死”・・どうして彼らが! |
次の日、私は、この事故に関した新聞記事を読んだり、現場の写真を見て、あまりにも危険なその現場の様子が、徐々に明らかになってきた(上は、先日の朝日新聞)。そして、この記事を書いたある新聞記者が、彼らのたどった道を実際に歩いてみたという。
「仙人橋」とある道標を過ぎると、いきなり下りが始まる。事故から三時間後、道はまだぬかるんでおり、丸太で出来た階段も滑りやすかった。道の脇にはロープが張られていたが、ひざ下の位置になるところもあり、注意深くバランスをとって歩かなければ転倒、転落の危険がある。2・3回曲りくねった道を15分ほど行くと、仙人橋に到着。続きの登山道が突然急になるのが、対岸からでも分る。橋を渡る途中、約50メートル下の渓谷に目をやると足がすくむ。渡って左手に事故現場の階段。大人でも一段ずつ進むのがやっとなほどの急傾斜だ。片側には手摺に代わるロープがあったが、崖となっている反対側にはない。
勿論、私が実際に歩いてみたわけではないが、中級者コースだという、その表示もないこの登山道は、子供が歩くにはあまりにも危険すぎはしないか。登山の好きな私でも、子供では無理だろう大井沢や朝日岳を登った、その山ですら命の危険を感じた事はない。プロの登山家ではない人たちを対象に整備された丸太の階段や登山道に、決して命の危険があってはならないはずだ。例えば、ロッククライミングや、京都の清水寺のあの低い手摺から転落する・・・などといった、あくまで自己責任に委ねられる特殊な場所はともかくも、一歩間違えば、50メートル下に転落してしまう・・といった、命の危険を感じるような場所には、少なくとも手摺や柵などの安全対策を講じるのはそう難しくはないだろう。同じような事故が起きないよう早急に見直しをすべきだし、・・・・それに、彼らの死が決して無駄になってはならない。
足を滑らせ転落した子供を助けようとした、彼の優しさと強い責任感から招いてしまった彼の死。そんな彼のこの日の様子は、このハイキングのためのジュースを、自宅の冷蔵庫に入りきれないので公民館の冷蔵庫で用意していたという。そして、冷蔵庫を使ったそのお礼にと、公民館周りの草取りをしていたのだと知った。先日、そんな心優しい彼の告別式で、長男はまだ大学生だというあまりにも若い喪主は、その挨拶の中で、「信じられないこの知らせを聞き、飛んで帰り自分の目の前の父を見て、涙が止まらなかった。」と。そして、「ここまで育てていただいたお返しは、何も出来なくなった。」と、声を詰まらせながら、なれない挨拶を素直な気持で語った彼の言葉に、私は又胸が熱くなり涙した。そして、無念にも他界してしまった彼の何時もの笑顔を思い出しながら、私は、心の底から彼の冥福を祈るしかなかった。